住まいの文化賞Housing Culture Award

講評

古い農家を建て直したもので、平家建て、深い軒に被われた縁先、来客を招じ入れる装置としての玄関の間など、日本の伝統的な家屋が持っていた良さをふんだんに取り入れた木造住宅である。そしてそれらが地元の職人の確かな手によってしっかりと造り上げられている。敷地の前を流れる川を意識して整えられた外観は伝統的な町並みをかもし出すことにも貢献している。この家に住む御夫婦と奥様の母親との3人という家族数のわりには広々とした食堂は同じ敷地内に住む息子さんの家族が夕食の度に集うところとなり、同じく深い軒空間を経て庭に面する広々とした居間は、しばしばお仲間が集う宴の場となるという。やや広めの廊下もそれ自体が収納スペースになっているだけでなく、同時にそこはお孫さんの読書のスペースにもなるように工夫されている。こうして家族が、友人が、仲間が集まることを可能にし、それを招来する家族空間が敷地一帯に実現されている。兼業農家であった御夫婦が、十分に満足できた、共に定年を迎えて後の暮らしの場として申し分のない建て替えであったとのことがしみじみと共感できる住まいである。