住まいの文化賞Housing Culture Award

講評

この住宅は、隣にそびえ立つ公営の高層アパートが陽を遮るように間近に見下ろし、その敷地境界にはそびえるようにコンクリートの塀が巡らされているという、厳しい敷地条件に建っている。しかし家の中に入ってみると、それらの厳しい条件は見事に消し去られており、外からは思いがけない快適な空間が展開する。そして、厳しい条件に取って代わり、高層アパートの敷地内の植栽や、敷地裏にある小公園の緑など、周辺環境の好条件
が見事に借景されている。それはこの住宅の壁や開口部の巧みな配置によって実現されているのである。その上で、建具の行き届いた扱いにより、
TPO に応じて隔てられたり、つなげられ、あるいは組み合わされることができる、情報量豊かな空間が内部に構成されている。この住宅の価値は、こういった快適さが設計者の腕により一方的に実現されたのではなく、設計者は建て主の住要求を良く引き出し、建て主は設計者の問いに具体的に応え、その求めるところに施工者がよく応えることによって実現されているところにある。3 者の見事なチームワークであり、それは3 者が満足する結果をもたらしただけでなく、客観的な評価を得る結果となっている。「より暮らしやすいよう設計してあげると、結果的に美しく住むことができることを住人から教わった」とは、設計者の弁である。