(有)OSCM住宅工房
職人の知恵と技術、経験を結集した建築
日本では古来より、木の特質を生かした木組みの家が建てられてきた。「いいのやの家」には、その伝統の技が用いられている。施工を担当した浜松市の「有限会社OSCM住宅工房」は、日本の伝統的な木組みの技を生かした家づくりを得意としている。代表取締役の鈴木修氏と、設計を行った「有限会社大石設計室」の大石智氏は共に「民家の工房ネットワーク」を立ち上げ、各自の専門分野を生かして住まいづくりをしている。かつて同じ会社で働いていた頃からの、良きパートナーだ。
鈴木氏は「この家の正方形をいくつも並べてコの字型となった間取りは、古民家に多く見られます。」と話す。居間や客間などに見られる、木組みの美しさが印象的な「かぼちゃ束」も、伝統的な構法だ。これは屋根を支える梁がなく、部屋の中心にある真束へと四方から伸びてくる隅木が集まり、もたれ合うことで屋根を支えている。そのため、本来なら梁の上に載る真束は空中に浮いたような状態となり、天井には広々とした空間が生まれる。この絶妙なバランスは、職人の知恵と高い技術、経験などを結集して作り出されるものだ。
自然感覚を大切にして住まう人々の感性を豊かに
これまで多数の木の家づくりに携わってきた鈴木氏だが、かぼちゃ束は今回が初めての挑戦だったという。そのため、「実際に現場で組んだ時にどれだけの重力がかかるのか、重みによってどの程度屋根が下がるのか、手探りでした。」と語る。そこで、事前に何度も仮組を行って確認した。手で少しずつ刻んでは組み直す、という作業を何度も繰り返し、微調整をしていくのは、確かな技術と手間を要する仕事だ。あまり経験する機会がない作業のため、苦労したが良い勉強になった、と鈴木氏は言い、「実は使用する木材が少なくてすむ、自然にやさしい工法なのです。」と付け加えた。
鈴木氏は自然感覚を大切にする家づくりをテーマとし、木・石・土などの自然素材の香り、風や陽光が感じられる住環境を作ることで、住まう人々の感性を豊かにしたいと考えている。また、建材には地元の名産である天竜スギ・ヒノキの無垢材を使う。地元材にこだわるのは、その土地の気候に合うため歪みなどが起こりにくく、運搬コストを抑えられるという利点に加え、地域の林業を支えたいという想いがあるからだ。
日本の伝統的な技を生かし良い家を作り続ける
「木を使う家づくりが好き」と笑顔で語る鈴木氏は、古民家の調査や再生に携わることで、伝統的な木組みや、家づくりの知恵を学んできた。梁や柱を表に出す構造は、木が呼吸できるので傷みにくくなり、コンディションが良くわかるので、メンテナンスもしやすい。このような知恵を、現代の家づくりにも生かしていきたいのだと、氏は語る。鈴木氏は子供の成人を契機に、生家の近くにある古民家を購入し、自らの手で新たな事務所として再生させた。現在、平日はこの事務所に寝泊まりしながら古民家暮らしを体感し、休日は自宅に帰るという生活を送っており、その経験を自身の仕事にも生かしているという。
鈴木氏は「静岡県住まいの文化賞」の第20回では優秀賞、今回は最優秀賞に輝いた。氏は「自分が生きて仕事をしている間に、このような賞をいただけるとは思ってもみませんでした。」と、喜びを述べる。受賞後は同業者をはじめ、周囲の方々からも「新聞で見たよ」と声をかけられたといい、自分の仕事について知ってもらえたのは嬉しい、と話す。「これからもこの賞に恥じぬよう、努めていきたいです。」鈴木氏は、そう言葉に力を込めた。
第27回受賞作品について
『いいのやの家』
完成年 | 2018年8月 | 規模 | 平屋199.47㎡ | 構造 | 木造 |
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作品概要 | 「いいのやの家」は、田園風景を望む高台に建つ平屋住宅。「かぼちゃ束」の方形構造が特徴で、居間と客間、車寄せ、東屋に見られる。パッシブな温熱空調システムにより、家中の空気を心地良く保つ工夫がされている。 |
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お施主様の声 | 設計者・施工者共に、旧宅のリフォームの時から信頼を置いていて、心を開いて話し合える人達です。建築材料は自然のものに限定し、生活様式に合う作りにこだわりました。方形構造の部屋、空気を循環させるシステムなどを取り入れ、機能的にも満足のいく自慢の家となりました。 |