受賞者の声VOICE

(有)大石設計室

心地よい終の棲家を作る自然の力と設計の技

 人生の節目は、新たな住まいを作るきっかけのひとつだ。「いいのやの家」も、住まい手が退職を機に計画をスタートした、終の棲家だ。設計を行ったのは、浜松市に事務所を構える「有限会社大石設計室」の大石智氏。「冬寒くないこと」「将来、車椅子でも生活できること」「広い空間とそこから広がる窓からの眺め」といった希望を受け、大石氏は心地よい体感温度と快適な空間を作り出すため、自然の力と伝統構法を生かした住まいを考案した。寒さ対策としては、各室に大きな間口を設けて太陽光をたっぷりと受け入れ、屋根面で暖まった外気を床下に送り込み、断熱と遮熱でダブルの外皮を作った。また、進入路からポーチ、玄関ホールまでをスロープで繋げ、室内はバリアフリーにし、窓からは水琴窟の音色が聞こえる庭園、眼下に広がる田園と稲荷山を望む風景を設計。そして、この家の最大の特徴である「かぼちゃ束の方形架構」を居間と客間に取り入れ、2.5間角(12.5帖)の無柱空間を2つ並べて25帖の広々とした空間を作り出した。

古民家の知恵を受け継ぎ次の世代に残す

 「かぼちゃ束の方形架構は、プレカットが主となった大工さんたちには、とても良い刺激になったようです。」と、大石氏は語る。規矩術の本を持ち出し、差し金を当て、墨付けをして加工したら、仮組みをして確かめる。大変手間がかかるため、職人たちが楽しみながら作業できるよう努めたが、現代構法と伝統構法を両使いした家づくりを見守る難しさも痛感したという。

 大石氏は、施工を担当した「有限会社OSCM住宅工房」の鈴木修氏らと「民家の工房ネットワーク」を組み、古民家再生にも積極的に取り組む。「古民家にはその土地に暮らし、住まうための知恵が詰まっている。この知恵が素晴らしいのは、様々な環境に対し絶妙なバランスが保たれている点です。」と、大石氏は語る。「古民家を継承した家に住まうことでその知恵を引き継ぎ、新たな時代や環境とうまく共生することもできると考えています。」大切なものを受け継いで、次世代に残したいという想いが、そこにはある。

自然と共に無理なく暮らせる住まいを

 「賞というと、デザインや機能などについて評価をする、あるいは設計士や施工者を表彰するものが一般的です。」
 「静岡県住まいの文化賞」は、住まい手の『これを作りたい、このように暮らしたい』という想いや住まい方、そして住まい手自身が表彰されるというスタンスが大変素晴らしいと思います。また、受賞することで家の良さを伝えてもらえるだけでなく、住まい手自身が良いと思っていたことが周りや専門家から認めてもらえること、それにより、住まい手の家への愛情がより深まり自信になる、自慢したくなる点も、この賞の良い所だと思います。機会があれば、今後も応募していきたいです。」と大石氏は語る。
 大石氏は、家づくりの基本理念を「自然と共に、無理なく自然に」とし、「自然や環境に抵抗するのではなく、受け入れて共に生き、置かれている環境に対し無理することなく場を作り、無理のないようにそこに暮らせる住まい」を心がけている。住まい手の想いを汲みながら、自然に無理なく暮らせる家、自慢したくなるような家を、これからも作っていくことだろう。

第27回受賞作品について

『いいのやの家』

完成年 2018年8月 規模 平屋199.47㎡ 構造 木造
作品概要 「いいのやの家」は、田園風景を望む高台に建つ平屋住宅。「かぼちゃ束」の方形構造が特徴で、居間と客間、車寄せ、東屋に見られる。パッシブな温熱空調システムにより、家中の空気を心地良く保つ工夫がされている。
お施主様の声 設計者・施工者共に、旧宅のリフォームの時から信頼を置いていて、心を開いて話し合える人達です。建築材料は自然のものに限定し、生活様式に合う作りにこだわりました。方形構造の部屋、空気を循環させるシステムなどを取り入れ、機能的にも満足のいく自慢の家となりました。

(有)大石設計室

大石 智 氏
〒433-8125 浜松市中区和合町220-756
TEL:053-479-0410
ホームページ:https://minkakobo.pro/