受賞者の声VOICE

(株)サン工房

受け継がれた想いを再生して新たな住まいへ

 代々受け継がれ、住まわれてきた家の構造材や家具を、新たな形に生まれ変わらせたい。そんな住まい手の想いを叶えた「幸漆・幸然の家」は、両親と子供家族が暮らす二世帯住宅である。その特徴は間口約6m・奥行き50mという非常に細長い敷地に建つ、長さ約40mにもおよぶ住宅で、親世帯側と子世帯側とでは、全く異なる雰囲気を持っている。設計・施工を行ったのは浜松市に拠点を置く「サン工房」だ。リフォーム・リノベーション部長を務める金原陽一氏は、こう話す。「今までの住まいで使っていた家具や建具、木材などを使いたい、というお客様の想いを叶えられました。」

 両親世帯側の平屋には、蔵にあった年月の経った大きな牛梁を製材し直して居間に、蔵の戸は玄関の扉に使用し、箱階段も再生して利用。外した瓦や庇も帕庭づくりに再利用して、新築ながらも古き良き懐かしさを残す、趣のある空間を作り出した。一方、2階建ての子世帯側は明るい木質を生かして、和モダンを基調とした明るい雰囲気に。北欧テイストの内装デザインを取り入れ、シックでナチュラルな空間に仕上げた。

不変的な美しさを携えた丈夫で長持ちする住まいを

 この家が建つのは、古い街道沿いの来歴ある土地。両隣にはすでに家が建ち並ぶなど多くの制約があり、今回の建て替えには色々な苦労があったという。「一番悩んだのは、建築工事自体をどのように進めていったら良いか、ということですね。」と、金原氏は話す。土地の形状は特殊でクレーン車が届かないため、一気に建てることができず、材料の置き場所にも悩むような状況。そこで、最初に親世帯、次に子世帯を建て、最後に二つの建物を連結するという手順で施工を行い、材料はそれぞれの建物ごとに予め分けて運び込む、という計画で進められた。「お客様との打ち合わせを重ねる中で、図面を立ち上げる設計担当者の案と、現場担当の設計者の案がうまく組み合わさり、さらに職人の技とエッセンスが加わることで、ベストな形がご提案できたのではないかと感じています。」

 サン工房ではお客様の想いを大切にし、家づくりには十分な時間をかけている。まずはお客様と信頼関係を築き、知り合ってから着工までに約2〜3年、長いと5〜6年かけてお客様のバックボーンや住まいに対する価値観などをじっくりと伺い、お客様が何に最も重きを置いているかを理解したうえで、喜ばれる家を提案している。

 また、同社は不変的な美しさを携えた、「丈夫で長持ちする住まいづくり」を行うため、一貫して国産材と伝統技術にこだわっている。土地の気候になじむよう、構造材には地元の天竜材を用い、それを通じて地域の林業を支え、活性化に繋げていくことも目指しているという。

造り手側だけでは、良い住まいは造れない

 サン工房では「造り手側だけでは、住まいは造れない」との考えから、住まい手の想いやこだわりを丁寧に伺い、新築はもちろんリフォームでは特に、その想いを再生して形にして残すことを心がけている。静岡県住まいの文化賞の受賞について、「その想いが形を成した結果が賞をいただけたことに、感謝しております。この受賞が、お客様の安心感にも繋がればと思います。」と、金原氏は笑顔を見せる。

第27回受賞作品について

『幸漆・幸然の家』

完成年 2019年11月 規模 2階建て・196.78㎡ 構造 木造
作品概要 間口約6m、奥行き約50mという細長い敷地に建つ「幸漆・幸然の家」は、共用の客間を間に配置し、二世帯を連結した個性豊かな住まい。再生した家具や木材を使い、親世帯と子世帯とで全く趣の異なる空間を生んでいる。
お施主様の声 綺麗に再生していただいた家具や木材に囲まれた生活は、新しい家でありながら懐かしさや落ち着きを感じます。また、力強い木組みや繊細な格子など木の風合いと優しさ、温かみのある住にいになりました。世帯間の距離もちょうど良く、二世帯でありながらも別棟で生活しているような感じがして、お互いの生活に必要以上に 干渉することなく良い関係で生活出来ています。